医者によって言うことが違う産科診療。誰を信用したらいいの?

年明けから色々と忙しくしているうちに、あっという間に半月が過ぎてしまい、ブログ更新も止まったままになってしまっていました。その間にも多くの方々に受診していただき、いろいろな話を聞いています。本日は、日常診療で出会う疑問や問題点について、少しまとめてみたいと思います。

まずは最近気になっている、胎盤の位置に関する話から、、

・妊娠10週台に胎盤の位置が低い(子宮口を覆っている恐れがある)と言われている人の多くは、なんの問題もないケースだと思われます。

妊娠中期の超音波検査で来院される方に、「何か心配なことや指摘されていることはありませんか?」と伺うと、「胎盤の位置が低いと言われた。」と言う方が結構多いのです。その上で、「安静が必要」(日本の産科医は安静が大好き)と言われていたり、「いずれ上がってくることがあるので、それまで様子を見ることが大事」(これは昔から言われていますが、私はそんなことあり得ないと思っています)と言われていたりします。しかし、そう言われている人の中で、本当に胎盤位置が低く、「前置胎盤」「低置胎盤」という診断になる人はほとんどいません。そもそも胎盤にはある程度の大きさと厚みがあるので、まだ子宮が小さいうちはあたかも内子宮口に被っているように見えることが多いのです。子宮頸管と胎盤や子宮全体との位置関係について、常に観察して経過を見ていると、一見そう見えているだけなんだろうなと想像できるようになります。妊娠10週台でこの指摘をする(かつ安静指示をする)お医者さんは、普段あまり意識せずに診療を行っていて、たまに気になると指摘してしまう人か、あるいは何でも厳しめに指導する人かのどちらかです。胎盤の位置についての評価は、20週ごろになってから行うことが適切とされています。もちろん、もっと早い段階でもこの位置なら明らかに前置胎盤になるだろうなというケースも稀にあります。しかし、なんの症状もなければ治療対象にはなりません。

・頸管長短縮の評価方法、評価基準、対処方法も統一されてません。

子宮頸管長が短いと言われて、安静を指示されたり、子宮収縮抑制剤を処方されたりしている方も多いようです。しかしよく聞いてみると、さほど短縮していると思えないような長さでも薬が出されていたりします。また少しでも「お腹が張る」という訴えがあると、すぐに薬が出され、安静が指示されます。このほとんどは、根拠に基づいていません。のみぐすりの子宮収縮抑制剤に流早産予防薬としての意義はほとんどないと思われます。

頸管長のデータや早産との関連については、いくつかの研究結果があり、これらをまとめた見解に基づいた記載が産婦人科診療ガイドラインにもあります。正常妊婦では一般に妊娠初期から中期で40mm、32週以降では25mm〜30mmに短縮するとされています。どの程度短縮していたらどの程度早産が増えるかという複数の研究結果から、さしあたり25mmを下回った場合にハイリスクとして認識するというのが一般的だと思われます。しかし、これに対してどのような管理法が有効かはまだ明らかになっていません。前記した正常妊婦の値を極端に捉えて、40mmよりも短いというだけで薬が投与されていたりする例もしばしば見られ、これも困ったものですが、妊婦健診のたびに計測していたら長さが回復したという話(実際には一度短縮した頸管が元に戻ることはありえないと思われます)も聞かれるなど、実に曖昧な医療が横行しているように感じます。30年前ならいざ知らず、「ズファジラン」「ダクチル」といったような薬、まだ使ってるの?という世界です。

・ちょっと出血しただけで、そんなに脅かさなくても。

妊娠中の出血と流産との関連性が高いと考えられていたのは、まだ出血のメカニズムがよくわかっていなかった時代のことです。「切迫流産」という病名もその頃の名残です。私が医者になって間もない頃、今から30年ほど前の時代にはまだ経腟超音波は開発段階で、商品として普及していませんでした。お腹の上から見る超音波診断装置もまだ解像度が今ほど良くはなかったので、妊娠のごく初期の段階では子宮内でどのような変化が起こっているのか知る由もありませんでした。そんな中、出血は流産につながる可能性のある重大な症状と考えられていたのです。何しろ流産するときには出血しますので、当然といえば当然です。しかし、その後診断機器が開発され、研究も進み、いろいろなことがわかるようになるにつれ、出血と流産との関連は以前考えられていたほど強くはなく、様々な理由で出血は起こるが多くの場合自然に治り、妊娠は問題なく継続することがわかってきました。いまや、「切迫流産」という病名がつけられている人のほとんどは、流産のおそれなど微塵もない状況なのではないかとさえ思えます。

それでもなお、産科診療の現場では、出血があった場合にいろいろと脅かされます。やれ胎盤が剥がれかけているだの、胎盤が大きくなれないだの、胎児への血流が不足するだのといろいろと脅かされ、安静にしていなければならないとか、症状を抑えるために薬が必要とか、、、

本当に安静が必要なら、入院管理すべきです。自宅に帰して、安静にしていろと言われても、どう生活したらいいのでしょうか。

考えてみれば、安静を指示することはたやすいことです。何かよくない結果になったときに、きちんと安静にしていなかったのが良くなかったのだと、人のせいにできるからです。そりゃあ私だって、きつい運動をしたりハードワークで疲労するような生活はやめた方が良いと思いますけど、家でじっとしていることと普通に日常を送ることの間にどの程度の違いがあるのかよくわかりませんし、家族構成によっては家でじっとしていることなどとても無理な人もおられることでしょう。

なんども言いますが、本当に安静が必要なら入院管理すべきです。そうでないのなら無責任に安静にしているようになどと言わないでほしい。安易に自宅安静を(それも結構厳しく)指示するお医者さんは、無責任だと私は思います。