年頭所感2022 今年を出生前検査元年にできるか

新年が明けてもう10日以上経ってしまいました。

 ブログの更新が滞っています。じつは先日すでに3200文字の年頭所感の原稿を書き上げて、あとは「公開する」のボタンをクリックするだけの状態だったのですが、一歩前で踏みとどまり、全面的に修正することにしたのです。

 

 ちょっと勢いに任せて書きすぎました。

 読者数が少ないとはいえブログに公開するということは、全世界に向けて意見を表明することになりますので、いつ何時誰が読むかわかりません。立場上、今現在言うべきではないこともあると思い、書き直すことにしたのです。

 

日本医学会に新たに設置された委員会

 ご存知の方は案外多くはないかもしれませんが、昨年11月に日本医学会に「出生前検査認証制度等運営委員会」が設置されました。

https://jams.med.or.jp/news/061.html

これは、昨年6月に厚生労働省が出した方針に基づくもので、20年間消極的だったわが国の出生前検査体制を、積極的情報開示に転換するにあたっての新たな体制づくりの具体策を作成し、推進していくための委員会です。昨年6月の以下の記事も参考にしてください。

drsushi.hatenablog.com

 ということで、これからこの国の産科外来のありかたは少し変わるであろうと想像しています。これまでは、厚生労働省からの通知を受けて、出生前検査の存在については医師は妊婦に「積極的に知らせる必要はない。」とされていました。そうなった背景には、当時アメリカから入ってきたトリプルマーカー検査(クアトロテストの一つ前のversion)が、急速に全国の産婦人科外来に普及したことがあって、このことから、当時の多くの産婦人科医が、「国が出生前検査をやってはいけないと言っている。」と認識してしまったのでした。

 これ以来、妊婦さんが出生前検査について相談すると、「そんなことを考えるのはけしからん。」というような態度を取る医師が、多く出現してしまったのです。中には、「倫理的に問題がある。」などと言い出す輩も出てきてしまったのですが、生命倫理などまともに学んでない人に限ってこういう発言するんですよ。そしてこの状態が長く続いたことによって、その後産婦人科医になった若い医師たちも出生前検査はいろいろと問題のあるものなので、積極的に扱ってはいけないというような教育を先輩から受けてしまうという悪い連鎖反応のようなものも起こるようになってしまいました。

 

産婦人科医の多くはむしろ慎重な考えを持っている。

 だから今のお医者さん達は、基本的に慎重派の人が多いのです。産婦人科医もそんなに検査に積極的ではないんです。NIPTが学会で規制されたまま年月が過ぎて、美容外科や内科などで検査をやり出して無法地帯のようになってしまっても、産婦人科医がおとなしく学会に従っている背景には、こういう事情もあるのです。

 でも、国のお墨付きが出たらまた状況は違ってくるでしょう。妊婦さん達のニーズに応えて、積極的に検査を扱いたい医師が増えることでしょう。その一方で、そうなることを良しとしない人たちが、なんとか規制したいと考える。ここのバランスがどうなるか。海外では皆普通に受けられる検査になっているのだし、健全な形で普及させることが大事という言い方になるのでしょうけど、この「健全な形」とはどういうものなのか、ここの考え方の部分は、人による違いが大きいだろうと思います。そして、なんとなく思うのは、今の日本医学会の委員会のメンバー構成で良いのだろうかということ。あまり良い形になるような予感がしません。(あ、言っちゃった)

 

後年に、2022年が出生前検査元年だったと堂々と言えるようにしたい

 まあそもそも出生前検査の体制について見直しが始まったきっかけは、学会の認定を無視して、検査を勝手に扱った美容外科などに妊婦さん達が殺到してしまったことが大きく影響していますから、自分たちの決めた規制が多くの人たちから見限られてしまったわけですよ。ゲリラに大衆が迎合して蹂躙されたようなもんです。それでもなお、大衆の方を向いてないようでは、ゲリラを無力化することはできないだろうし、無理やり無力化しようとしても大衆から反発を喰らう可能性があるでしょう。

 このあたりまで考慮して、出生前検査の普及に対して感情的に、頑なに反対していた人たちが、柔軟に考え方をシフトしていくことができるかどうか。

 今年が本当にこの国の出生前検査元年と言えるようになるのかどうか。いま議論している人たちの手腕にかかっています。そして、本当の意味できちんと検査そのものやその考え方、扱われ方がちゃんと普及するように、人任せにしないで発信し続けていきたいと考えています。