2022年は、出生前診断元年になったのか?

あっという間に2023年の1月が過ぎ去ってしまいました。ブログ記事を一つも書かないうちに、もう2月になって焦っています。

昨年の10月からNIPTをやれるようになって、それまで「NIPTやれない問題」と対峙して、なんとか壁を乗り越えよう、鍵をこじ開けようとしていた必死さ、渇望感が、一気に薄れたこともあると思います。正直クリニックの死活問題でしたので、心理的にギリギリのこともありました。これを乗り越えて、発信しなければという追い詰められた状態から脱したのもありますが、同時にまだまだやらなければならないことも多々あって、忙しくなっていました。そのあたりのことについて、書きたいと思います。

さて、昨年1月に、2022年を出生前検査元年にできるかどうかということを書きました。

drsushi.hatenablog.com

あらためて読んでみると、やはり必死だったなあ、自分自身余裕がなかったなあと感じますね。そして、この種の問題について意図がうまく伝わるように書くことは難しいものだなあとも思います。書き直しているにも関わらず、殴り書きのような文章になっていて、自分で読んでも伝わりにくそうに感じてしまいました。

あれから1年経って、委員会が動き始めて、NIPTを実施する「認証施設」も増えつつあり、今現在がどうなったのかについて、考えてみます。

1月は多忙でした。

実はこのところ、クリニックでの診療という日常業務以外のところで、複数の仕事が重なるという忙しさになっていました。もともと私が長年やっていた大学病院での仕事には、臨床・研究・教育という3つがあり、その立場から開業医に転身した場合は、普通は臨床中心にシフトするものなんです。しかし、立場は開業医でも私のやっていることは特殊なものなので、今でもこの3つを常に意識しています。学会に参加して定期的に発表し続けているのもその一環です。本来ならばそこから論文を執筆することが必要で、できれば今年は国際的な学術誌に何本か論文を出したいとも考えているのですが、まだ着手できていません。

では何が忙しかったのか。まず、ここ数年にわたって準備をしていた専門書の作成が最終段階に入っていること(これについてはまた別に報告したいと考えています)など、国内の同業者を対象とした情報発信や、依頼原稿の執筆などが重なりました。そういう仕事をする中で調べ物をしていたり、診療の中で遭遇するいろいろなケースに関連して新しい資料を探したりしていると、ここ数年ずっと続けている出生前診断の勉強会「FMC川瀧塾」の内容を毎度毎度更新する必要が生じてきました。診療面でも、NIPTを開始したとはいえ、まだまだ認証施設ではない美容外科などが検査を行なっている状況が続いているので、多くの方に当院のことを認知してもらう必要性は減りません。情報発信に取り組むことも続けなければなりません。

情報発信をどうする?

それと同時に、昨年厚労省の方針が「出生前検査の認知度を高めるべく、妊婦さんや家族・パートナーに対し、積極的に情報提供を行う」ことになった(これが出生前診断元年といえるようになる第一歩だと考えていたわけです)ことが、本当にうまく進んでいるのかどうかという問題が見えてきました。

私たちは、NIPTが実施できるようになる以前の段階で、どうも日本における出生前検査の扱いがうまくない方向に向いたままになっていると感じ、有志を募って正しい情報発信ができる場を作ろうという計画を立てていました。ウェブサイトの作成は、もう一歩のところまで進んでいたのですが、継続性まで含めて構想を実現させるには、今やっている仕事量に上乗せするには負担が大きすぎるなど、物事を思い通りに進められるかどうかの不安があり、また、複数の専門家の考えが必ずしも同じ方向を向いているわけでもないことに気づき、計画をストップさせてどうするべきか考えていました。

新たな情報提供のプラットフォームづくり

そんな中、厚生労働省が出生前検査の普及啓発事業を募集してこれに援助を行うという話があり、この話の流れの中で、私に協力要請がありました。実は昨年、日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会のウェブサイトが立ち上がり、この中の一般の方向けページで様々な情報提供が行われることを聞いており、充実したページになることが期待されたのですが、これがなかなかアップされないままになっていました。

ちょっと中の人に近い筋から漏れ伝わってくる話では、このページの内容はもう出来上がっているのだが、様々な意見があって、なかなか公開に至らないとのことでした(つい最近、ようやく更新されました)。こういう話を聞いて、またその周囲の状況(後述します)から考えて、出生前検査・診断に関連する情報提供やこの国における普及の道筋は、まだまだ問題山積で、油断していると思わぬ方向に向かいかねないと感じました。

こういった事情もあって、私は普及啓発事業の一環としてスタートすることになった別サイトの作成に参画することにしたのです。オフィシャルにいろいろと出て来る情報の内容や出し方に、周囲から文句を垂れているだけでは何も変わらない、きちんとした形で発信されるものの中に、可能な限り意見を反映させていくべきだと判断したからです。現在作成中のサイトには、複数の立場の専門家が参画し、意見調整を行いながら作業を行なっています。厚生労働省が関わる事業ですので、日本医学会が発信する情報との整合性も考えなければならず、全ての意見を押し切れるものでもありません。どうしても妥協点を見出していく作業となりますが、意見できるところはきちんと意見して作業を進めているつもりです。

実はNIPTを開始するにあたり、認証の過程や認証後の運営委員会からの要請などについて、不満に感じる点もいくつかありました。これは私たちのみならず、私たちよりも少し前に認証を受けた「基幹施設」の先生方からもいろいろ聞かされていました。例えば検査前の説明・遺伝カウンセリングの際にはこの資料を使用するようにとされている文書についても、問題に感じる部分が多々あるのです。基幹施設の中にも、この文書は一応形式的には見せてはいるがあまり使っていないというところがあることを知っています。だから、私たちが関わるサイトでは、その問題に感じる部分を可能な限り排除して、ちょっと違ったものにしたいという気持ちもあります。全く違う意見開示になってしまうと両方読む人が混乱するので、全否定するようなことは出しませんが、伝え方など工夫できればと思っています。

結局2022年は、出生前診断元年になったのか?

さて、表題の2022年が出生前診断(検査)元年になったのかどうか?ですが、形の上ではそうなったと言えるはずだと思います。長年のコンセプトに変化が起きて、状況を変えていこうという動きは始まったわけです。ただ、本当の意味でそう言えるようになるのかどうかはこれからの課題です。

 後年になって、「あの時が、日本における出生前診断元年だった。」と振り返ることができるようになるよう、まだまだやらなければならないことはたくさんあると感じています。