この国では、出生前検査・診断の普及度は、まだまだ低いレベルにとどまっている – アンケート調査結果から考える

昨年10月にジャーナリストの河合蘭さんとベビカム株式会社が行った共同インターネット調査『出生前診断にニーズに関するアンケート』の結果が、昨年末にプレスリリースされました。

出生前診断について妊婦はどう考えている?調査で分かった、判定結果に対する十分な事前情報とサポート体制の必要性。〜35歳以上の妊婦の97.4%が、 陽性判定の場合にはカウンセリングが必要と回答〜|ベビカム株式会社 のプレスリリース

 妊娠・育児情報サイト『ベビカム』会員を対象とした調査で、出産経験のある女性と妊娠中の女性515名が回答しています。

 プレスリリースでは詳細なデータは示されていませんので、現在資料請求中ですが、河合蘭さんがFacebookページ(https://www.facebook.com/ran.kawai.54)でデータを一部公開しておられましたので、そこから感じたことを記載しておきます。

どのぐらいの妊婦さん達が、出生前検査を受けているのか

 出生前検査を何か受けましたか?という設問への回答が集計されています。今回調査では、出生前検査として、胎児超音波(妊婦健診とは別枠で行うもの)、コンバインド検査、クアトロテスト、NIPT、羊水検査、絨毛検査の6項目が選択肢として挙げられていました。ベビカムでは2012年にも同様の検査を行なっていたようで、この時には、血清マーカー検査、羊水検査、その両方という3項目でした。

 この2012年調査では、これらの検査を受けていた妊婦の頻度は、1割に満たない数字で、35歳未満の90.3%、35歳以上の85.9%が、血清マーカー、羊水検査のいずれも受けていませんでした。

 今回の調査では、『何も受けていない』という回答は、35歳未満では82.9%、35歳から39歳では65.3%、40歳以上では40.9%となっていましたので、35歳以上の妊婦さんたちの間では、出生前検査を受けるという行動が増えたということが言えるでしょう。これはやはり、NIPTが話題に上ることが増えていること、またインターネットなどを介して検査の宣伝に触れる可能性が高くなっている(学会認定外の施設は、盛んに宣伝しています)ことが関係しているのでしょう。しかし、受けた検査の内訳を見ると、例えば40歳以上の妊婦さんの場合、NIPT 22.7%、超音波検査22.7%、羊水検査15.9%、クアトロテスト9.1%、コンバインド検査9.1%と続いており、適切な検査にアクセスできているかどうかというと、疑問を感じざるをえません。また、年齢が高い妊婦さんは、年齢が上がるとともに胎児の問題が増加する(年齢と関係するのは染色体トリソミーですが、その事実まで理解しているかどうかはわかりません)ということを心配して検査を受けておられるのでしょうが、若い年齢の妊婦さんたちは、胎児の問題は自分たちにはあまり関係のないことと思われているのか、妊婦健診を受けていれば大丈夫と思っているのか、関心が低そうだと感じました。

 そして、高年齢の妊婦さんにおいては検査を受ける率が徐々に増えている傾向にあるのだろうとはいえ、全体的に見るとやはりこの国の妊婦さんは、出生前検査を受けている頻度がかなり少ないといえます。

 何よりも、海外の先進国では、産科医療のガイドラインに、妊婦全員に出生前検査に関する情報提供をするべきと記載されているし、すべての妊婦が胎児の詳細を観察する機会を経る仕組みになっていることとの大きな違いを感じます。日本のお医者さん達は、妊婦健診や周産期医療のシステムについて、周産期死亡が少ないことなどのデータをもとに自画自賛するのではなく、本当に妊婦さん達に必要な情報提供ができているのか、妊婦さんの不安を解消するための仕組みになっているのかについて、よく考える必要があるでしょう。

情報提供は適切に行われているのか

 産科医から出生前検査の話はありましたか?という質問もありました。

 この回答を見ると、「はい」と答えたのが、35歳未満では15.4%、35歳から39歳では29.7%、40歳以上では34.1%でした。

 要するに、日本の妊婦健診の現場では、出生前検査についての情報提供はほとんどなされていないのです。多くの妊婦さんは、独自に情報を得るしかないのです。当院を受診された方への問診時に、「妊婦健診を普通に受けていれば、何か情報提供してもらえるものだと思っていた。」という話をよく聞きます。妊婦さん達が妊婦健診に期待していることと、実際に現場で行われていることとの間に、乖離があると思われます。

 出生前検査に関する考えやその扱いについては、日本では、病院ごとに、あるいは医師ごとに違いが大きく、一律にこうするという指針がありません。だから、妊婦さんがどういう情報を受け取ることになるかは、担当医それぞれの判断や考えに左右されます。そして何故か、妊婦健診をおこなっている医師は、年齢が高くなればなるほど偉そうに指導するような姿勢・態度になりがちです。妊婦は基本的に若い年齢の女性ですから、年齢の高い医師から見て、指導する対象のように見られてしまう傾向があるのだと思います。医師達は、まるで自分たちが人生経験豊富であるかのように勘違いしていることが多いのですが、実は多くの医師は、狭い世界の中でしか経験や知見がなく、世間知らずであったり偏狭であったりするからタチが悪いです。こういう医師に振り回されて困っている事例も多く耳にしていますので、今後も話題として取り上げていきたいと考えています。

 現在、日本産科婦人科学会のNIPT実施に関わる指針の妥当性の検証が行われているところですが、もし学会が推進しようとしているように多くの産科医が出生前検査を扱えるようにしようというのであれば、現在行われているような日本産科婦人科遺伝診療学会における講習会の受講などといった方策だけではなく、産婦人科医すべてに対して効力のあるようなガイドライン作りを行うことが必要でしょう。全ての産婦人科医が、出生前の胎児の検査に関して、どのような姿勢で臨むべきなのか、明確にする必要があると考えます。

もっと調査の規模を広げてほしい

 今回取り上げた調査は、10日間という短い調査期間に、インターネットのサイトを訪れた人という限られた層が対象で、回答者515名という小規模な調査です。インターネットを用いている点で、全国規模の広範な妊婦を対象にできる良さはあるので、産科医療機関での回答募集を募るなどして、もっと多くの人数から回答が得られるような設計をしてほしかったと感じました。実際に出生する子どもの数から考えて、対象数があまりにも少なすぎます。偏りが生じる恐れが強いと思われ、どうしても説得力に欠けるところがあります。

 できれば同じような調査が、もっと多くの人数の回答を得られる形で実施され、分析されることを望みます。そしてたとえば、妊婦さんの年齢だけで分けるのではなく、居住地域による違い、世帯年収・学歴や、職業、居住環境、家族構成といった生活実態による違いなどが分析されると、この国における産科医療や妊婦さんの実態を知る上で有用な調査になり得ると思われます。