【NIPT】出生前検査に『お手軽プラン』!?(怒)

つい先日、妊婦や胎児の診療を行ったことなどないような人たちがNIPTを商売のタネにしていることについて記事を書きましたが、そういう施設が大々的に宣伝を行うのに使っているパンフレットを目にしました。これがまた酷いので、ここで取り上げたいと思います。

 施設の名前はここでは述べません。結果として宣伝のようになってしまうのは本意ではないし、ここに限らず、他のところも根本的には同じようなものだと思うので、たまたまパンフレットを見た施設の問題だけをあげつらっても、意味がないと思われるからです。この検査を商売のタネにしようという人たちの基本姿勢はこんなものだという見本として、一般化できるのではないかと考えます。このチラシは、ある産婦人科のお医者さんがお持ちでした。産婦人科外来に置いてもらえるように、営業活動をしているようです。

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 何が酷いって、この検査の種類についての説明です。いろいろなプランが並んでいるんですが、ここに並んでいる検査項目のそれぞれにどういう意味があるのか、多分やっている方もわかってないです。一番高い検査が、『安心フルセットプラン』で、おすすめ!この機会に安心したい方に。と書いてあるんですが、本当に安心につながるんでしょうか。この検査項目問題、以前にも何度か取り上げていますので、ぜひ以下の記事も併せてお読みください。

全染色体の異数性を対象とするNIPTの問題点について – FMC東京 院長室

NIPTのオプションが増えることは、安心が増えることとは必ずしも一致しないかもしれない(その2) – FMC東京 院長室

NIPTのオプションが増えることは、安心が増えることとは必ずしも一致しないかもしれない(その3) – FMC東京 院長室

全染色体は大丈夫?「ビショウケツ」の検査も受けた? – 非認定NIPT提供施設で全染色体の異数性や微細欠失症候群を扱っていることの問題点 その1 – FMC東京 院長室

某無認可クリニックの全染色体検査:わかってやってるんでしょうかねえ – FMC東京 院長室

 こうやってみてみると、かなり何度も取り上げてきたんですねえ。多くの方にこの問題を知ってもらいたいです。

 それで、プランの話に戻りますが、これを見ていくと真ん中から下には、以下のようなものがあります。

『お手軽ライトプラン』

『お手軽スモールプラン』

お手軽! もう、倒れそうになりました。小児科医の立場からNIPTの普及に危機感を持っている先生方が見たら、間違いなく卒倒しますよ。

 人生の上で、重大な選択に関わる検査を、お手軽に提供しようということらしいです。その結果、大変な悩みを抱えることになった方が何人も私たちのクリニックに来られている事など、頭の隅にもないのでしょう。

 そして、『最安ミニマムプラン』。この説明が、「認可施設で行われている検査です」と書かれていて、まるで認可施設ではミニマムな検査しかできませんよと嘲笑っているかのようです。

 ついでに、このクリニックのホームページも見てみたんですが、これがまたすごい。こういう記載が出てくるんです。

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         (ホームページの記載をそのまま書き写したものです)

 いきなりこれですよ。NIPTって、遺伝子異常を調べる検査のことでしたっけ?

 もちろん、最新の技術では、遺伝子レベルまで検出することも可能になってきていて、特殊なケースには適用されることも海外では検討されているようですが、このホームページ内の記載を見る限り、そういう話ではなくて、一般的な染色体異常を対象とした検査のことを、遺伝子異常を調べる検査と言っているようです。上に貼り付けた画像に続いて、「どんな遺伝子異常がわかるの?」と書いてあって、その下にダウン症候群や18トリソミーなどの染色体異常の説明が出てくるのです。

 当院を受診される妊婦さんたちの中にも、染色体と遺伝子とを混同していて、染色体検査のことを遺伝子検査という人はそれなりにいらっしゃるのですが、そこはまあ素人さんのこと、知識が正確でなくても良いとは思うのです。当院で説明を受けて、間違った記憶が修正されれば良いのですから。しかしですねえ、出生前診断に関係する検査を行っている医療機関が、この間違いはまずいでしょう。まともな医療機関とは思えません。

 しかし、ここはビジネスとしては本当にすごい。安普請な採血のみ行うクリニックを全国展開して、ガンガン宣伝しています。はじめは小さなローカルクリニックだったのに、学会がゴタゴタしている隙をついてあっという間に大手になってしまいました。

 これを放置しているのは、本当にまずいです。

 

 この手の構図、どこかでみたことあるなあと思ったら、要するに高級ブランドのバッタもんと同じですね。正直な商売してる人たちは、ブランド品を扱うライセンスを得られなくてそれを売ることができないでいる中、バッタもんを扱う連中が大々的に商売を広げて、富を得ているわけです。バッタもんに手を出す人は、とりあえず使えるものなら手に入れやすいところで手に入れようとするわけですが、たまに粗悪品をつかまされて酷い目に合う人が出てくるわけです。まあ、私たちはさしずめ、腕の立つ職人の立ち上げた独自ブランドの専門店で、独自商品を売りつつ、ブランド品でもバッタもんでも、持ち込まれたら技術を駆使して修理を請け負うような立場といったところでしょうか。技術や知識は豊富でも、あまり儲けにはつながりません。

 しかしですねえ、出生前検査はバッグとかの売りもんとは違うんですよ。人間のもっと根源的な、生命倫理に関わる問題、社会のあり方、人類の未来につながる大きな問題を、まるでブランド品を安く売り捌くように扱われたら、さすがにまずいでしょう。

 

 実は先日、学会未認定の産婦人科ではないクリニックのスタッフから当院に連絡が来て、代表者の医師が話をしたいと言っているというのです。私はその時には特に話すことはなかったので保留にしたのですが、当院の田村にも連絡があり、後で聞いたところによると、日本人類遺伝学会に入会したい、ひいては学会評議員である私か田村に推薦状を書いてもらいたいという話のようでした。日本人類遺伝学会への入会には評議員の推薦が必要なのです。しかし、どう考えても学会に入会してしっかりと知識を得たいというよりは、むしろ人類遺伝学会の会員資格もあるということをアピールすることが目的と思われたので、お断りさせていただきました。学会の意向に沿わないだけでなく、倫理的にも問題が多い商売をしているような人を推薦できるわけがないではないですか。私たちは学会の決めた指針のせいでNIPT実施施設として正式には認定を受けることのできない立場なので、シンパシーを感じてもらえるとでも思ったのでしょうか。私たちは、あなたたちのような人とは違うという気持ちがあるから、何年もガマンしてNIPTだけをできない立場に甘んじているのですよ。

 この問題、もう学術団体に丸投げして解決する問題ではありません。

 私たちのできることは、微々たる力にしかなりません。この国の出生前検査・診断の状況が日に日に悪化していくのを、手をこまねいて見ているしかない立場に追い込まれているのが、悲しくて仕方がありません。