【続報】新型出生前診断の指針改定 何が動いた?これからどうなる?根本的な問題は解決されたのか?

先週末に急に動いた感のある、NIPT(俗にいう“新型出生前診断”)の指針の改訂と複数学会の容認の話題ですが、関係各所に聞いて回ったところ、経緯が少しわかりました。

 

 このブログで今月はじめに出した以下の記事、私が愚痴っている間に水面下ではいろいろと話を進めていたんですね。まずは一度おさらい。 で、今回水面下で進んだ背景には、厚労省が審議会を立ち上げる、その前段階として資料作りを行うワーキンググループを開始していたけれど、3回やったところでコロナの問題が生じてストップしてしまい、その後動いていないことがあります。 国の対応が遅々として進まない中、認定を受けていない施設が認定施設よりもはるかに多い検査を行なっていて、これが増え続けていると言う現状を、なんとかしないといけないので、まずは何らかの形で前に進めることが大事ということになったのでしょう。

 聞くところによると、昨年就任された、日本産科婦人科学会の木村正理事長が、だいぶ努力されたようです。昨年暮れにお話しさせていただいた時にも、この問題をなんとか解決しなければならないという意志が感じられたのですが、実行に移された行動力と手腕は、高く評価できるものと感じます。

 ちょうど一年前の旧理事会体制の際に、日産婦が日本小児科学会や日本人類遺伝学会を置き去りにして、単独で新指針を発表したことに対し、置き去りにされた2学会が異議を唱え、厚労省預かりになった経緯を踏まえて、新理事長体制の日産婦として、どうすれば小児科学会・人類遺伝学会の合意が得られるのかという点について的を絞り、指針に修正を加える作業を行なったようです。結果的に、小児科学会側の主張を取り込み、小児科医につなげる体制の強化、この検査の実施に関して小児科専門医が積極的に関与できる形を作ることで、産婦人科学会が単独で暴走するつもりではない意思表示をするとともに、国民の多くが納得できる体制づくりにつなげようという姿勢が評価され、3学会が合意する体制につながったようです。

 もともと厚生労働省は、これらの学会同士のいざこざに端を発してこれを収めるべく審議会の立ち上げを考えたのであり、日産婦の新指針を却下するのではなく保留にしていただけですから、この指針を改訂することによって3学会がまとまるなら、文句はないわけです。おそらく問題なく前に進むのではないかと予想しますが、じゃあ厚労省に集められて作業していたワーキンググループはどうなるの?というと、お役御免になるんでしょうかね。先日「提言」を出した、「NIPTのよりよいあり方を考える有志」もこのワーキンググループに端を発して、おそらくストップしてしまっていることに危機感を覚えたこともあって、集まって提言作成に至ったのだと思われます。

 ということで、ストップしていたNIPTの新指針が運用され、検査を実施する体制が動き出すことになったわけですが、問題は報道されていることがどの程度事実を反映しているのかという点です。

 昨日の記事では、「診療所など小規模医療機関でも受けられるように指針を改訂したと発表した。」と書かれているのですが、この小規模医療機関というのが、どういう医療機関を指しているのでしょうか。

 一年前に発表された新指針では、NIPTの実施施設は『基幹施設』と『連携施設』とに分けられていましたが、この『連携施設』が小規模医療機関に相当するとするならば、今回の改訂前の段階で、[5]−2 NIPTを行う施設が備えるべき要件として、(2)連携施設が備えるべき要件の中に、以下の記載があります。

3.検査施行後の分娩まで含めた妊娠経過の観察、および母体保護法に基づく妊娠中断の 可否の判断および処置を自施設において行うことが可能であり、現に行っていること。

改訂された後の指針を確認する必要があります(現時点で会員には周知されていません)が、小児科学会と人類遺伝学会からの要望に応えるための改訂を行ったという経緯から考えて、この部分はそのまま残っていると考えられます。つまり、小規模医療機関というのは、分娩を扱っている小規模医療機関ということでしょう。朝日の報道の中にある三上幹男倫理委員長の発言は、昨年ストップした時点での改訂部分の説明でしかなく、今回の新たな改訂の説明にはなっていないと思います。

 結局今回の改訂は、蔑ろにしていた2学会のメンツを立てる形で、落とし所を探り、合意にこぎつけたというだけで、要するに学会どうしの体面を保つ綱引きを調整したものであって、私たちにとっては、昨年のスタート地点に戻っただけと考えた方が良さそうです。まだ前理事会及び執行部(委員会)が犯した失点を回復して是正しただけの段階であり、大変な作業だったろうなと思うし、膠着状態にあったNIPT実施の状況を前に進めるようにした木村理事長の手腕は素晴らしいと感じますが、一年前のゴタゴタがなければこんな苦労は必要なかったはずだと思います。そして、この改訂の過程についても、結局は当事者不在と言わざるを得ないでしょう。また、現在問題になっている、認定を受けないで自由に各種検査を行なっている産婦人科医ですらない医療機関が、野放し状態になっている点については、何の解決にも結びつかないでしょう。

 結局は、昨年5月に私たちが日産婦宛に提出した公開質問状について、無視された結果に終わったという段階に戻るだけということです。

 もちろん、いろいろな問題が残されていることや、さまざまな意見が寄せられていることは、把握しているはずだと思います。改訂後の新指針そのものも暫定的なものと考えているらしいという声も聞こえてきますし、今後も3学会で連携を取りつつ指針の見直しは継続していくものと思われます。これには期待を寄せたいという気持ちももちろんないわけではありません。しかし、また爪弾きにされた状態の私たちは、上がじっくり考えて取り仕切っていくのだから大人しく待っていろということになるのでしょうか。以下は昨年3月のエントリーです。どのような施設、どのような医師や専門スタッフが、本当にこの検査を行うことのできる施設・スタッフとして適切なのか、きっちりと考えていただきたいものです。

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