『旧』施設認定・登録部会から届いた文書への反論を記します。

前記事↓で公開した文書への反論です。

drsushi.hatenablog.com本当は、返信を送って議論を続けたいのですが、前記事にも記載したように、既に議論の相手がいませんので、本当にやり場のない気持ちを込めて、せめてここで吐き出させてもらおうかというところです。

 何よりもまず、この文書の日付です。1月20日と記された文書なのに、投函されたのは3月3日でした。私のブログ記事に、『「回答後、直ちに迅速に審査する予定です。」と書いてある割には、遅いですねえ。』と書いたので、迅速に審査したということにしたかったのか、本当に1月中に返事ができていたのに、1か月以上放置されていたのか?

 そして次に気になったのが、差出人でした。ご丁寧に『旧』日本医学会・・・登録部会となっているのです。これは、私が質問状で、分娩数や人工妊娠中絶を行うことが可能か否かについての質問はいわゆる新指針に沿うものであって、旧指針の文言には当てはまらないのではないかということを書いたことや、今回の審査がどの指針に基づいていつの申請についてどう審査するものなのかを明確にするために加えられた一文字なのだろうと思います。同時に、もうこの部会は存在しないということも明確にしたかったという意図が感じられます。

 さて、本文です。

 旧指針に記載されている、検査施行後の妊娠経過の観察を続けることは、本部会においては、当該妊娠の分娩または中絶の終了までと捉え、平成25年の部会発足時より運用しております。

 この解釈に疑義を呈しているのです。検査施行後の妊娠経過の観察を続けること=当該妊娠の分娩または中絶の終了までという解釈は、部会の委員の皆さんが勝手に決めたことで、その解釈が正しいのか否かを問題にすべきです。また、当該妊娠の分娩または中絶の終了まで観察を続けるということが、自院で取り扱わなければならないということには当たらないと思います。だからこそ私たちは、申請書類において、分娩または中絶を扱う施設との連携体制について言及し、信頼できる医療機関と密に連絡を取り合いながらきちんとフォローできる体制にしている事を示したのです。現在、認定施設として検査を取り扱っている医療機関は、基本的に全て分娩を取り扱っている施設ではありますが、妊婦健診から分娩まで他院で管理していて、検査のみその施設に来る人も大勢存在しています。現認可施設でも、自院で管理していない妊婦の検査もたくさん扱っている現状なのに、自院で分娩できるか否かで認可する/しないを分けるのは、どう考えても理不尽ではないでしょうか。

 ただ、旧指針における文章の表現に曖昧で不明確な部分がある点は、日本産科婦人科学会母体血を用いた出生前遺伝学的検査に関する検討委員会でも承知しており、指針を見直し、改定するのに合わせて、明確な表現に改めて、現行の指針としております。現在、指針に基づく運用は一時停止しておりますが、遠からず現行の指針での運用が始まりますと、旧指針での認定施設には、現指針の期間施設への移行をお願いすることになります。その点を見据えて、現指針の文章を用いて貴施設に対して照会を行い、混乱を招いてしまったことについて、お詫び申し上げます。しかしながら、上に述べましたように、認定施設に必要とされる要件に変更があったわけではありません。

 この部分、私の指摘を認めていただいているようで何よりですが、認定施設に必要とされる要件に変更があったわけではないというのは、言い過ぎではないかと思います。旧指針では明記されていなかった(つまり委員の解釈で運用されていた)部分を、文章として明確化した(成文化した)ということですが、これは明らかな変更です。また、今回の分娩要件については、旧認定・登録部会のメンバーの間でのコンセンサスというよりは、日本産科婦人科学会の理事会、倫理委員会で出された意見が強く反映されていると思われます。この理事会や倫理委員会で発言力を持つ先生方(多くは日本各地の医大の教授クラス)は、妊婦の診療や分娩取り扱いの現場感覚からは離れたポジションにおられるように感じられます。今や普通の妊娠・出産ですら、一つの施設で全てを完結させる時代ではなくなってきているはずです。

 それにしても、現在厚生労働省で行なっている調査が、何を目的としてどういうゴールを目指しているのかがわからないのですが、ここで言及されているように、日産婦が出した新指針に基づく運用は、一時停止しているけれども遠からず始まるものなのでしょうか?日本産科婦人科学会が強引に進めようとしたところに異論が噴出した結果、止められてしまったと認識しているのですが、そのまま運用するための承認を得る儀式程度のものと楽観視しているように感じられます。今回のごたごたで日本産科婦人科学会の理事会は信頼を失って、厚生労働省の会議でも発言力を発揮できる立場にないように感じられるのですが、大丈夫なんでしょうか。

 この6年余りの間には、分娩取り扱いの要件を満たさないために認定に至らなかった施設があるのも事実であり、公平性を考慮すると、特例を認めることも行い難い状況です。

 もしかしたら『特例』?を認めることも考慮していただけたんでしょうかねえ。もしそうだとすると、当院の実績や姿勢は正当に評価していただけている可能性があるように思われ、少しは希望が持てる感じもします。しかし私は、これまで分娩取り扱い要件を満たさないことで認定に至らなかった施設があるという事実もひっくるめて異議を表明しているのであり、うちだけ特例を認めてくれと言っているわけではありません。これまである意味不当に認定を受けることができなかった施設があるなら、その施設も再度認定可能かどうか考慮すればいいのであって、公平ではないからという理由で、認定が認められないというのは、私の呈した疑義に対する回答として正当ではありません。

 日産婦の旧指針は昨年6月に失効しており、それに合わせて、日本医学会「遺伝子・健康・社会」検討委員会「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」施設認定・登録部会も任務を終えています。昨年12月の審査会議は、昨年6月までに申請書が提出された施設に対する審査であり、当日を以って日本医学会「遺伝子・健康・社会」検討委員会「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」施設認定・登録部会は解散しています。

 ということで、もうこの部会はないので、何か言ってきても無駄ですよという宣言ですね。

 さて、これまで認定を受けてきた施設は、この認定・登録部会に対して、検査を行った実績の報告を行ってきたんじゃないでしょうか。どれだけの検査を行って、どういう結果が出て、その結果を受けて妊婦さんたちはどういう行動を選択したのか、ということがきちんとした統計で示されることが、この部会を結成して登録を行い管理してきたことの意義ではないかと思います。そこに無認可施設が林立して、無茶苦茶にされてしまったわけですが、その状況を受けてこの登録・管理をおこなう仕組み自体も失われてしまったというのでしょうか。要するに今は無政府状態なんでしょうか?以前からこの問題について意見交換をしてきた、ある産婦人科医でかつ臨床遺伝専門医でもある医師(あえて名前は伏せます)は、この現状について拡大解釈をすると、これまでの認定施設も含め現在検査を行っている全ての施設が、無認可施設とも言えるかもしれないとおっしゃっていましたが、なるほどとも思いました。まあ、だから私たちもこの機に乗じて始めようとは思いませんが。

 結局今回届いた文書は、指針における分娩の取り扱いの話に終始し、これによって認定要件を満たしていないと宣言されて終わっているのですが、私が疑義を呈したもう一つの問題については、一言も触れられていません。それは、NIPTの依頼先の検査施行会社との契約が正しく結ばれているか確認するために契約書を提示せよとの要求に対する疑義の部分です。そもそも今回の顛末のように、認定されない可能性があるのに、検査会社とあらかじめ契約しているわけがないと伝えました。今回は、その話の前段階で却下ということなのでこの問題については触れなかったのかもしれませんが、この部分のおかしさについても、以前から他の施設からも声が上がっていたはずです。今後新たに認定・登録部会が再開される流れになるようなら、この部分についてもきちんと見直してもらわなければならないと感じています。

 何れにせよ今回は、予想されていたこととはいえ、肩透かしを食らったという印象が強いです。申請書の提出以来、1年半もの長きにわたって待ち続けた結果がこれとは、とても残念でなりません。この国の出生前検査・診断の停滞が、一体いつまで続くのか、この文書が届くと同時に一つ年齢を重ねた私は、自分自身もう若くないことを実感している分、本当にこれをなんとかすることができるのか、諦めずに問題に取り組んでいくことができるのか、問い直さなければならなくなってきているようにさえ感じる昨今です。