学会は純粋な学術論争の場たり得るか。日本人類遺伝学会で起こっていること。2. 文書を公開します。

前エントリーで予告しました、日本人類遺伝学会前理事長の福嶋義光 信州大学医学部名誉教授が配布された意見表明文書を全文公開いたします。

なお、この記事の理解のために、前記事および前々記事に目を通していただけると幸いです。そうでないと問題点がさっぱりわからないと思います。

 以下、配布文書内容です。

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日本人類遺伝学会 理事・監事の選挙に際して思うこと
 信州大学の福嶋義光です.2000から理事,2012年〜2015年は理事長,現在は監事を務めさせていただいております.今回の日本人類遺伝学会の理事選挙に際し,一言,私自身の個人的な思いを述べさせていただきます.
 ゲノム医療実現推進が国策の一つとなり,日本人類遺伝学会の役割は益々大きくなっています.これからの学会のあり方について考える際,2007に作成された日本人類遺伝学会の「理念と将来構想」(別紙参照)を再度,振り返っておくことも意味のあることだと思います.
 この「理念と将来構想」に記載されていることは,部分的には達成できているところもありますが,12年経過した現在も決して褪せること無く,本学会が目指すべき道を示していると思います.
 現在の日本人類遺伝学会には,次のような課題があります.
・ 学会員5,000名を擁する学会として,学会自前の事務局(オフィスおよび人員)を立ち上げ運営していくこと.
・ 下記約20存在する委員会活動をさらに活発化し,充実させること.
学会賞選考委員会
編集委員会(Journal of Human Genetics, Human Genome Variation)
臨床遺伝専門医制度委員会
臨床細胞遺伝学認定士制度委員会
認定遺伝カウンセラー制度委員会
GMRC制度委員会
遺伝医学セミナー実行委員会
臨床細胞遺伝学セミナー実行委員会
教育推進委員会
倫理審議委員会
利益相反委員会
広報委員会
保険委員会
遺伝学的検査委員会
薬理遺伝学委員会
キャリアパス委員会(旧男女共同参画審議委員会)
将来構想委員会
国際化推進委員会
・ 上記を達成させるため,財務・経理を一元管理し,経営を安定化させること.
・ 国策の一つとなっている「ゲノム医療実現推進」の中核を担う学会であることのプレゼンスを向上させること.
今回の理事選挙に際しては,世代交代をはかり,一領域に偏ること無く,多領域・横断的な組織をまとめていって下さる方,すなわち人類遺伝学会ファーストのお考えをお持ちの方で,実行力・推進力のある方に是非,理事になっていただきたいと切に願っております.
信州大学 福嶋義光 (前理事長)
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(別紙)

日本人類遺伝学会 「理念と将来構想」(2007年10月10日) http://202.212.147.205/introduction/philosophy.html
 
(略します)

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追伸:
 私自身は学会の将来を見据え,種々の要件,事柄を熟慮し,下記の方々に投票したいと考えております.なお,これはあくまでも私個人の考えであり,ここに掲げた方のどなたとも相談はしておりません.なお,監事については,学会運営の継続性を確保する意味からも現理事長である松原洋一先生にご就任いただくのが適切だと思います.また,ご指名いただけるのであれば,前理事長である私ももう一人の監事として,引き続き日本人類遺伝学会の発展のために尽力させていただきたいと考えております.
 
(以下,五十音順,敬称略)
青木洋子  キャリアパス委員会委員長,東北大学・遺伝子医療部門
井本逸勢  遺伝学的検査委員会委員,HGV associate editor,遺伝医学セミナー実行委員会委員
愛知県がんセンター・遺伝子医療部門
倉橋浩樹  遺伝医学セミナー実行委員会委員(前委員長),藤田医科大学・遺伝子医療部門
小崎健次郎  将来計画委員会担当理事,慶應大学・遺伝子医療部門
古庄知己 臨床遺伝専門医制度委員,信州大学・遺伝子医療部門
小杉眞司 日本遺伝カウンセリング学会理事長,日本遺伝子診療学会理事長
京都大学・遺伝子医療部門
櫻井晃洋  遺伝教育啓発担当理事,札幌医科大学・遺伝子医療部門
高田史男  財務委員長,新事務所設立担当理事,北里大学・遺伝子医療部門
徳永勝士  編集委員会副委員長 HGV (Human Genome Variation) Editor in Chief
戸田達史  遺伝医学セミナー実行委員会担当理事,東京大学・遺伝子医療部門
松本直通  編集委員会委員長 JHG (Journal of Human Genetics) Editor in Chief
 
(以上)

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さて、この文書のどこが問題になっているのか、少なくとも前段を読む限り、まともな内容です。まあしかし、理事長職を4年おつとめになられて、それから4年経過しているわけですから、ご自身がおっしゃるように世代交代をはかり,一領域に偏ること無く,多領域・横断的な組織をまとめていって下さる方に託して、できれば一歩引いた位置から見守っていていただきたいと思うのですが、まるでご自身が現在もリーダーであり、新しい理事会が立ち上がろうともその上に君臨していこうという姿勢を示した施政方針開示のようです。

 そして、何より物議を醸しているのは『追伸』の部分です。

 ここで記載されているメンバーのほとんどの方が、小児科をバックグラウンドとしておられる方々なのです。また小児科医ではない方々も、小児の診療に密接に関わってこられた経歴の持ち主です。完全に一領域に偏ってるではないですか。もうほんと冗談のようです。

 あくまでも個人的考えで列挙したメンバーということなのですが、ご自身の立場で産婦人科以外の評議員(ちなみに全評議員中、産婦人科医が占める割合は28%程度に過ぎません)に配布した文書でこういう内容を記載した場合の、影響力の絶大さは熟知しておられることだろうと思います。

 そういえば、今回の評議員選挙も、今までとはだいぶ違った方法で、戸惑いがありました。これはおそらくまず評議員に占める産婦人科医の割合を減らし、その影響力を削ごうという目的に沿って考え抜かれた方法だったように感じます。選挙管理委員長が高田史男・北里大教授であったことがこれを物語っているように思います。

 ここに名前が載っている先生方のうち、数名の方は実際に私たちも信頼を置き、普段からお世話になっている素晴らしい先生であることは事実です。だから(誰とは言いませんが)その方々に理事になっていただくことは、私も歓迎ではあります。しかし、(誰とは言いませんが)明らかに彼のシンパという人選も並んでいます。ここに並べられたメンバーで理事会が形成されるということは、それはつまり福嶋前理事長が思い通りにやりやすい体制づくりということになります。要するに、院政を敷いて学会の私物化を目指しているということになるでしょう。

 何しろ極端なメンバー構成なのです。産婦人科医ゼロ、腫瘍関連医師ゼロ、遺伝カウンセラーゼロです。このメンバーに投票するのはご自身の勝手ですが、権力と影響力を握った立場で、評議員にそのことを示すとは恐ろしい。

 私たちにとって、このことが看過できない理由の大きな部分は、「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」(NIPT)の施設認定・登録部会が、日本医学会「遺伝子・健康・社会」検討委員会の下に設置されていたためです。この検討委員会は2011年に発足し、2017年6月に消滅したので、この後施設認定が動かなくなってしまっています。最後の2年間のメンバーは、以下のような構成でした。(◎は委員長)

  五十嵐 隆  国立成育医療研究センター 理事長

  鎌谷 直之  株式会社スタージェン情報解析研究所 所長

  小西 郁生  京都大学大学院医学研究科教授 婦人科学・産科学

  高田 史男  北里大学大学院医療系研究科教授 臨床遺伝医学

  中村 清吾  昭和大学医学部教授 乳腺外科/大学病院べレストセンター 診療科長

 ◎福嶋 義光  信州大学医学部教授 遺伝医学・予防医学講座

  宮地 勇人  東海大学医学部教授 基盤診療医学系臨床検査学

この時点では小西先生が入っていますが、この委員会の発足当初は、産婦人科医は入っていなかったとも聞いています。出生前検査の審査をするにあたって産婦人科医をせめて一人ぐらいは入れないといけなくなったから加えたのであろうと思われます。しかし、出生前検査の扱いについての議論を行う際に、可能な限り産婦人科医の影響力を排除して、人類遺伝学会(それも産婦人科医の影響力を少なく抑えて)の力を発揮してコントロールしようという意図が見えます。そして常に自分の片腕となる人物を随伴しているようです。

 NIPTをめぐる問題が、現在のような混乱に陥った元凶は実はここにあるはずなのです。非認定施設が横行する状況に関しても、そういう施設が増加してしまう原因を作ったのが、この委員会での管理なのであり、また委員会が消滅したまま放置したことなのです。非認定施設を悪と責めるよりも、自分たちが正しいことをしていると本気で思っている権威の独善性を、世間はもっと問題にすべきです。

 「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」(NIPT)の実施体制については、厚生労働省がこの秋にも検討会を設置して、議論を進めていくと聞いています。これがいつ、どのようなメンバー構成で行われるのかについては、情報が伝わってきません。しかし、学会や委員会で中心的な役割を果たしてこられた権威としてのこれまでの実績(?)から、あいかわらず福嶋名誉教授が重要な役割を担う人物として考えられているのであれば、今回の文書配布などの行動を参考に、本当にこの国における出生前検査のあり方について検討する場にふさわしい人物であるのかどうか、再考していただきたいと思うのです。