最良の選択が「非認定施設」でのNIPT検査だという皮肉

 日本産科婦人科学会の理事会、臨時総会、厚労省子ども家庭局母子保健課長通知を受けての新指針運用の停止から約4週間が経過する中、様々な動きが出てきているようで、いろいろな団体が意見開示や会合を行う話が伝わってきています。このように周りが騒いでいるうちにも、現在妊娠中の方々の妊娠は進行し、きちんとした検査にたどり着けない状態は続いています。そして、「非認定施設」はそのような問題は何処吹く風、今の内に稼げるだけ稼ごうと、ネットワークを駆使して全国展開を図っています。ずっと真面目に出生前検査・診断の診療を行ってきた立場としては、本当にイライラが募る日々です。当院のお問い合わせ窓口に、妊婦さんから、「なぜ貴院ではNIPTができないのですか?」という質問が来ます。本当に悲しくなります。

 先日、ある開業医の先生のところから相談がありました。

 39歳の妊婦さんが、妊娠中期の血清マーカー検査(クアドラプルマーカー検査)をお受けになり、ダウン症候群が高確率と出たために、羊水穿刺を試みた。2度ほど穿刺したがうまく羊水を吸引することができなかったので、検査を中止した。申し訳ないのだが、専門施設で対応してもらえるところがあるかもしれないと言って貴院を紹介することにしたいのだが、受け入れてもらえないだろうか。という内容でした。

 こういうちょっと難しい状況になってしまった際に、当院のことを思い出していただいてご相談いただけることはありがたいことで、私たちのクリニックも認知され信頼されるようになってきていると実感します。羊水穿刺も数多く行ってきた経験があるし、現在もコンスタントに行っていますので、技術にも自信があります。難しいケースでも頑張って対応します。

 ただ、何度か穿刺が行われた挙句にうまくいかなかったような場合に、これを引きうけてもう一度穿刺を行うことは少しためらわれます。安全性がやや落ちる状況になるからです。この場合に、他にどういう選択肢があり得るでしょうか。

 こういったケースでおそらく最も良い選択は、NIPTです。なぜなら検査は採血だけで母体胎児への危険はほとんどないし、結果の信頼度も十分に高いです。そもそも年齢の高い妊婦さんがクアドラプルマーカー検査を受けて、確率が高めになるのはふつうのことで、「スクリーン陽性」と結果が出ても、実際に染色体異常がある可能性はそれほど高くはありません。これはあくまでも羊水穿刺を行うかどうかを決めるための検査であって、元々は35歳以上であれば全員が対象になっていた前提から、検査の結果対象から外れる人が出てくるというだけなのですから。参考記事はこちら↓

クアトロテストは、はっきり言って微妙な検査です。 – FMC東京 院長室

 だから私たちも、NIPTをまずはお勧めしました。しかし、この方は妊娠週数がすでに18週になろうというところで、いわゆる認定施設ではこれくらいの時期になると受け入れてくれないところも出てきます(最終的な確定検査が間に合わないなどといったような謎の理由で)し、予約も決して取りやすくありません。また、夫婦で遺伝カウンセリングを受けに行く余裕もありません。

 そういった諸々の状況を考えると、一番良い選択はいわゆる「非認定施設」でNIPTを受けることになってしまいます。これらの施設自体は信頼度の低い医療機関だとは思うものの、検査はきちんとしたものだし、検査の説明や遺伝カウンセリングは当院でしっかり受けてもらえば、検査結果を受けての再度の遺伝カウンセリングや、陽性結果が出た場合の羊水検査とその結果説明、最終的な判断のサポートや分娩場所の紹介など、すべて当院で請け負います。当院でできないことは、NIPTそのものだけなのです。

 いろいろとお考えになった結果、ご夫婦は当院での羊水穿刺を選択されました。そもそも確定検査を受けようと決意されていたことや、NIPTで安心が得られれば良いけれども、偽陰性がゼロではない(ほとんどありませんが)こと、万が一陽性が出た場合には結局羊水穿刺を受けることになり、NIPTの費用もばかにならないこと、などいろいろと比較検討した上での結論です。この後無事に当院での羊水検査をお受けになり、染色体正常の結果を得られました。

 それにしてもなんと皮肉なことなのか。NIPTの門戸がもっと広ければ、この方はこの年齢では「陽性」という結果が出てしまう可能性が高いマーカー検査など選択しないで済んだはずだし、その結果やらずもがなの穿刺を、2か所の医療機関で受ける羽目には陥らなかったでしょう。門戸が狭く、情報が不十分であったがゆえに、しばらく不安な時期を過ごさなければならない状況になったのです。世間では、『非認定施設での検査は、十分な説明もなく、妊婦さんたちが不安を抱えたり困難な状況に陥る恐れがある。』などと言いますが、現状はこのようなものです。全国のたくさんの妊婦さんが普段通院している施設ではこのような曖昧な検査しか受けられず、その結果不安な状態に追い込まれ、結果的に「非認定施設」でのNIPTがおそらく最も良い選択肢になってしまうのです。この状況は、早急に変える必要があります。