日本医学会認定施設の先生、冷たくあしらわないで。

前回、「次はへその緒の話をしようと思います。」と書いたのですが、前にこの記事を書いてあったのを発見しました。

drsushi.hatenablog.comこれ、昨年10月に書いたんですが、今も同じこと毎日のように言われます。へその緒が絡まるって、イメージしやすいんですかね。でもじゃあどうなるの?っていうその先まではあまり想像できないんでしょうね。ちょっと専門的になりますからねえ。素人さんには考えにくいかな。ただ、最近超音波診断装置の解像度が上がって、小さいうちから人間の形をして動いていることを目で見ることができるようになったので、その大まかな形だけで、まるで完成した人間と同様のイメージを持ってしまう(例えば何かを考えているとか、何かしようとしているとか、何かを感じているとか)ようになっているのは、少し問題なのかもしれません。母性の喚起とか、男性もパートナーが命を宿していることを実感できるようになるとか、良い面ももちろんあるんでしょうが、まだまだ未熟な胎児をあまりに成熟したイメージで捉えてしまうのもちょっと違うと思うのです。このぐらいの時期だとまだ何も感じていませんとか、考えることができるほど脳は発達していませんとか、無粋かもしれないけど、そういう情報を発信しないといけないのかなあと考えています。

さて、というわけで前置きが長くなってしまったのですが、へその緒の話はやめにして、最近あった気になる事例を一つ取り上げようと思います。NIPTに絡んで、また日本の歪さがあらわになったケースです。

 

 先日、かかりつけの病院で、「FMC東京クリニックなら絨毛検査を引き受けてくれるかもしれない。」と言われ、当院に問い合わせてこられたケースの話です。

 この妊婦さんは、年齢が34歳ということもあり、いわゆる“無認可施設”でNIPT検査をお受けになったのですが、そこで一つのトリソミーが『陽性』と判定されました。それで慌ててかかりつけ医に相談したところ、じゃあ確定検査をしてもらいましょうということになり、近隣の日本医学会の認可を受けてNIPTを行なっている施設で確定検査ができるので、その施設宛の紹介状をもらい、受診されました。

 ところが、この施設では「無認可の施設で検査を受けた人はうちでは受けられない。」と言って、検査を断られたそうなのです。それで困ってかかりつけ医に再度相談し、「FMCなら」という流れになったというわけです。

 しかし、これを聞いて驚いたというか、正直のところがっかりしました。一体どういうことなのか、意味がわかりません。無認可で、たいした説明もなしに検査を扱っている施設に問題があることはわかります。そういう施設がたくさんの検査を扱うようになっていること、多くの妊婦さんが検査を受けに行っていることに対して、苦々しく感じていることもよくわかります。私も同じ思いですから。しかし、そこで検査を受けた人には罪はないと思うのです。だって、専門家でもなくていろいろな問題点についてよくわかっているわけでもない一般の人が、検査を受けさせてくれる医療機関があると言われたら、そこを選択するのは自然なことではないですか。そして検査を受けたら『陽性』が出て、その後のフォローがない。この妊婦さんはいわば犠牲者です。「そんなところで検査を受けるのが悪い、自業自得だ。」とでも言いたいのでしょうか。『本当はそういう施設には行ってほしくないのだけれど、よくない結果で困っておられるのなら、あとはうちで引き受けましょう。』っていうのが大人の対応ってもんでしょう。なんと冷たいのか。きちんと絨毛検査や羊水検査をやっている施設なんて数少ないのですから、そちらで受けてあげないと露頭に迷うことになるかもしれないじゃないですか。そういう想像力も働かないのでしょうか。

 出生前検査・診断を間違いなく、混乱なく、しっかりコントロールしつつ進めていきたいという思いはわかります。そのために努力してこられたことは重々承知しています。その思いをぶち破られた恨みを、ぶち破った施設に向けるのではなく、受診した一般の妊婦さんに向けるのは筋違いではないでしょうか。自分たちがコントロールしてやるという形にばかりこだわって、個々の妊婦さんたちの想いと向き合っていないから、そういう対応になるのではないでしょうか。今のNIPTの認可の仕組みの問題点が露呈して、修正が必要とされているはずなのに、議論が進まないで止まっている。そうこうするうちに極端に不自由な立場に置かれているこの国の妊婦さんたちは、右往左往した末に無認可施設に吸い寄せられて、十分な対応を受けられず露頭に迷う状況に追いやられているのです。うちでは受けられないと言った先生は、その状況を作った一端を担っている可能性すらあるのです。全体の問題と、個々の立場で困っている人をなんとかしてあげることは、わけて考えてあげられませんかねえ。出生前検査・診断は誰のためにあるのか、もう一度原点に戻って考えてもらわないと。この国の出生前検査が良い方向に進まない理由がわかるような気がします。

 まあ、こういう事例があるからこそ、当院の存在意義があるとも言えるんですけどね。「FMCなら」と言ってくださったかかりつけの先生、ありがたいことです。

 

 さて、頑張って更新しているこのブログ。この先しばらくは更新ペースが落ちることになると思いますので、事前にお断りしておきます。実は現在、医療従事者対象のテキストブックの作成計画が進んでいます。しばらくはこの仕事に重点を置くことになります。一般の方に向けた発信も継続的に続けなければならないと強く思っているのですが、上記計画を頓挫させるわけにも行きません。うまくバランスをとってやっていくために、ブログの執筆量を減らすことになるでしょう。ご了解ください。