NIPTを扱う施設が林立してきましたが、どのように検査を扱っているのでしょうか?(ちゃんとやってるのか?)

NIPTの現状について問題提起する以下のブログ記事を書いたところ、それなりの反響をいただきまして、たいへんありがたいことと思う反面、まだまだ影響力は小さくて、肝心のところには届いてないなあと感じる今日この頃です。

これを出してから約1か月、私たちのクリニックが、公益社団法人 日本産科婦人科学会気付で日本医学会「遺伝子・健康・社会」検討委員会「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」施設認定・登録部会宛に申請書類を提出してから、3か月以上が経過していますが、書類がどう扱われているのか、審査は行われているのか、全くなしのつぶてです。

そうしている間にも、東京近郊では上記記事で出てきたようなクリニックが林立する状況になってきていて、そういうところで検査を受けた後に、当院に相談に来られるケースが増えてきています。

そこで今日は、当院に相談してこられた方からメール添付で送っていただいた、無認可NIPT検査施設から郵送されてきた検査結果をここで公開します。これらの検査結果については特に説明はなく、ただ単純に郵送されてきたということです。

まずはこれ

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これは衝撃的ですねえ。⊕陽性と、強く主張しています。

詳しい説明もなく、これが送られてきたらどう感じるでしょうか。これでは完全に確定診断のようですね。最後に書かれている『推奨』という部分の文章、どういう意味のことを言っているのか、私にはなんとなくわかりますが、これ素人さんにはわからないでしょう。

この報告書の問題点はいくつかありますが、特にこの陽性と赤い文字で大書しているところが良くないと思います。見落としや間違いが生じないようにという意図があるのでしょうが、警告表示のように記してしまった時点で、『この胎児には異常があるのだ。』と強く主張していて、そこにはある種の価値観が含まれた表現になっていると感じます。

次に、これです。

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これもなんだか妙なレポートですねえ。染色体の絵なんかがついていますけど、低リスク/高リスクという表現も気になるし、単児/双児って、どこの言葉なんでしょう?外国語を翻訳したんでしょうけど、日本語を知らない人の仕事なのかと思ってしまいます。

検査の精度という言葉も明らかな間違いです。精度と書かれている部分は、感度と書くのが正しいはずです。“計2000件あまりの検体(サンプル)を採取し、そのうち6件の検体が、胎児の常染色体に高リスクで数的異常をもつことを検出しています。”って書いてありますけど、それって少なくないですか?で、ここで“精度”と書かれている感度ですが、どのトリソミーも>99%となっていて、ちょっといい加減な感じがします。まあ上の文章で陽性と出たのが6件と述べているわけなので、ここのデータも適当なのではないかなと思うわけです。この6件に13トリソミーは含まれているのかな?頻度的にない可能性もありそうです。だいたいこれまでいくつかの検査会社が出しているデータでも、13トリソミーの検出感度はもう少し悪いはずです。この検査、どこの検査会社が扱っているのでしょうか??怪しい感じです。

そして、もっと気になるのは、性染色体のところ。まあそもそも最近は性染色体という言い方もしなくなってきているのですが、XO(これも間違い)とか、XXY/XYYとか、XXXとかが高リスクという結果になっている時、誰がどのようにその説明をするのでしょうか。いや説明などせず、ただ単にその表示のまま送付されてくるに違いありません。その結果、妊婦さんや家族は、どのような情報を頼りに、どういう選択をするのでしょうか。

実は私たちのところに来るケースで、過去に他院で羊水検査を受けた結果、染色体異常があったので中絶したというエピソードの中に、47,XXXとか47,XYYとかの結果、これはたいへんな異常で、障害があるとかまともに育たないとか(そんなことはありません)といった、間違った説明を医師から受けて中絶を決断していたというケースもあります。医師が説明しても(知識の乏しい医師だったりすると)、間違った説明のもとで選択に至っている(これもまた問題点で、羊水検査は技術自体はそう難しくはないので、染色体の知識の乏しい医者でも検査を扱っていたりする。NIPTの規制だけ厳しくてこういうのはそのまま放置というのも問題)のに、何の予備知識もないところに郵送で送られてくるというのは、たいへんなことだと感じます。

このようなものが横行している現実を、日本産科婦人科学会や日本医学会の偉いさん達は認識しておられるのでしょうか。現場で私たちが日夜どんな思いで、これらのクリニックの尻拭いをしているか、お分かりでしょうか。

NIPTについてgoogle検索すると、続々と無認可施設の広告がトップに並びます。妊婦さん達には、認可施設と無認可施設の違いはよくわかりませんので、気軽に検査を受けることができる無認可施設に続々と流れるのは、自明です。いつまでこの状態を放置するのか。この検査をコントロールしてきた人たちは、その成果について自画自賛するばかりではなく、自分たちの進めてきた方針には失敗があったことを謙虚に認めて、この国の出生前検査が新たな一歩を踏み出せるように、努力してもらいたいものです。