東京医大入試問題を機に、医療界の問題、医療の仕組みの問題など、もっとみんなに知ってほしい。

いま世間を賑わしている、東京医大の入試における女性差別問題。いろいろな立場の人が、様々な意見を開示しておられますが、当事者ともいえる医師、それも大学医局の仕組みの中での苦労を知る医師からの発言が、問題の本質に踏み込んでいて、この問題が単なる性差別の問題ではなく、医師の働き方やこの国の医療のあり方の問題点に深く関わるものであることが浮き彫りになってきました。

こういった医師たちの発言は、私のネットワーク内ではよく目にしますが、おそらく一般の人たちが触れるテレビに代表される一般的メディアでの取り上げられ方では、伝わっていないことが多いのではないかと感じます。

私のブログはまあ影響力は小さいものですが、読者の多くは実際に産科医療を受ける立場の方々、これから出産に向かおうとしている人たちであろうと思います。そこで、この問題をきっかけに、医療界では何が問題と実感されているのか、その中でも特に産婦人科医の問題は実際どうなのか、これからお産する方々が受ける医療の根底にはどのような問題が存在しているのかについて、知っていただく良い機会だと思い、最近私が目にした複数の記事を紹介したいと考えました。ぜひ、以下のリンクから元記事に目を通していただければと思います。

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 東邦大学産婦人科・中田雅彦教授のブログ記事です。医師の現場・待遇がどのようなものなのか、多くの方はご存知ないと思いますが、これを読んでいただくと分かり易いでしょう。彼は、“パンドラの箱が開いた”と表現していますが、本当にそうであってほしい。しかし、私には私たちの周りでのみそういう印象があるのであって、ちょっと開いたんだけど重い蓋がまたすぐに閉じそう、という感じがします。なんとか大きく開いて出すもの出さないとと思います。

女性医師問題でゆれる真夏の夜の所感 | 小さな命に想いを馳せて

 

フリーランスの産婦人科医として活動される傍、日本はぐケア協会理事長などの肩書きをお持ちの医師のfacebook投稿です。助産師志望の看護師から医学部に入り直して産婦人科医になったという珍しい経歴を持つ立場から、「マンパワー不足」が問題の根本であることについて、説明しておられます。最後の一文がたいへん重要です。

平林 大輔 – 東京医大問題に関してFacebookで医療関係者の投稿が増えてきていたので、自分もちょっと持論を書きま… | Facebook

 

当院でも診療を担当していただいている宋美玄医師が、BuzzFeedNewsに寄稿した渾身の記事です。自身の経験をもとに、女性医師のリアルな姿と女性だけの問題ではなく医療現場全体の問題であることをまとめておられます。医療現場の人手不足と過重労働が根本原因であるという指摘で、「定額使われ放題」という名言を生んでいます。

お産の現場で働き続けるつもりだった私が、当直勤務を手放し、開業した理由

 

 

臨床医の立場から医療の中にある問題点にずっと向き合ってこられた小松秀樹医師のfacebook投稿です。ここでは大学医局の問題点について述べておられます。私も長い間大学の内部にいましたので、ここに書かれていることには心に響く部分があります。

Hideki Komatsu – 女性医師のリアリズム… | Facebook

 

医療ガバナンス研究所・上昌広理事長の記事です。同じく大学病院の現状と問題点について言及されています。ここで述べられていることもやはり、「定額使われ放題」の構造ですね。

東京医大が「女子差別」を続けた根本原因 | プレジデントオンライン

 

最後は、今回の問題から派生して、少し前の記事が再注目されたというものです。医療現場のみならず、日本の他の職場でも同様だと思いますが、女性が働きにくい状況を普通のこと、当然のこととして一所懸命現状維持していこうという体制が強固なことがこの国の特徴のように思います。そんな中で、おっさん化して職場に同化できる女性のみが職場に残るという形の枠内で、少し女性を役職に入れてお茶を濁すという方策だけでは、もうこれからの少子化時代には社会が崩壊します。もっと外に目を向けて、どうしたら違う方法が成功するのかという視点を持つことが必要だと感じます。

世界各国比較|医師の男女比ランキング・年代・診療科別

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以上、いくつかの記事を紹介してきました。

私自身、超ハードな職場(大学病院)を離れて、現在は自分が思うように時間をコントロールできる立場になりましたので、周りからみると、『立ち去り型サボタージュ』を実践した人の範疇に入るのかもしれません。ただ私自身は、大学での超ハードな業務自体は、なんとかしていかなければと考えつつもやりがいは感じていて、大学が嫌でやめたわけではありません。大学病院での臨床も教育もやる気がありました(研究はダメダメの人でしたが)。単にもっと自分の知識・経験・技術を生かして新しいことに挑戦したいという気持ちから後ろ髪引かれながら飛び出したので、『立ち去った』というつもりは全くありません。お産の現場や赤ちゃんが大好きだったし、今でもその現場感覚は失いたくないという気持ちがあります。しかし、実際に朝早くから夜遅くまでのdutyに縛られた上に当直や呼び出しで何時間も仕事が続く生活から、毎晩家で寝ることのできる生活に変わって、「これが人間的な生活なんだ!」と実感したことも事実です。それまでの自分は、ハードな日々にドップリ浸かって、身を粉にして働くことが日常的で当たり前のことのような感覚になっていましたから。しかし、あの生活を続けていたら、自分は今のように健康ではいられなかったかもしれないと考えてしまいます。

一般的に見れば、私は出世コースを進んで、そのまま数年頑張れば教授に手がとどく道筋にいた人で、医者の世界でもある意味エリートだった(でも自分で飛び出しちゃった変わり種)わけです。そして、世間では医者は金を稼いでいると思われていて、みなさんそう思っているんだろうなと感じることがよくありましたが、実は大学病院の医者の給料は、その仕事の責任から見てもすごく低いものでした(給料が悪いからやめたわけではありませんが)。エリートの方が名誉はあるようで、収入は低いという不思議な構造がありました(というか、今もそうです)。そもそも大学病院では、大学の教員としての給料しかもらっていない。臨床医としての給料はないのです。安い当直料ぐらいです。で、世間一般の人からみてある程度良い年収になるには、アルバイトが必要でした。平日は週に一度、それから夜間当直と土日当直、お盆や年末年始の留守番など大学病院以外の場所での収入が半分以上ありました。でも、一般的職業の男性が普通に働いて、例えばその妻がパートタイマーで家計を助けるという構図と比べると、自分自身が夜間休日に体を酷使した方が、妻がパートするよりはるかに収入がよくなるので、家のことは妻に任せて自分は土日も不在という、割と典型的な昭和的生活でした。それでも私の場合体力があったので、なんとか早く帰ることのできる日には積極的に子育てに参画しましたし、仕事のない土日は子供達を連れていろいろなところに遊びに行ったりできたから良かったものの、体力のない人だともう仕事のない日は家で寝てるしかなくなるんじゃないかと思います。今になって、あの頃当たり前だと思っていた、患者家族への病状説明などを時間外に行うことなどといった業務は、まさにボランティアで、無くさなければならないものの一つだと思います。医師も普通の労働者なのだという当たり前のことを蔑ろにしてきたのだなあ、それはいけない事だ、変えていかなければならないと思います。

一般の人たちに医者の生活への誤解を解いてもらい、医療のあり方についてよく考えていただき、自己管理を意識し、受診方法を見直してもらう必要がある、と同時に、国民皆保険制度の良い点と問題点とを整理し、医療の役割分担を明確にし、チーム医療を推進し、医療にかかるコストの配分を整理しなければなりません。変えなければならないことは山のようにあります。それほど、これまで無理やりな体制をずっと維持し続けて、そのしわ寄せを若い医師に背負わせてきたのだと感じています。