考え方は人それぞれ。自分基準で決めてもらっていいんですが、、、

カタい話が続いたので、ここらで少し日常の話題を。と言っても、どうも私の文章自体がカタイのか、「ブログを読んだんですが、難しくって、、」という感想をいただくことがけっこう多いので、反省してます。(と言いつつ、今後もクソ真面目に続けるつもりですが)

さて、私の日常の仕事のかなりの時間は、超音波検査に割いているわけで、まあ一日中よく同じことをやっているものだとは思うものの、胎児の動きを見るのはこれがけっこう楽しいものなんです。これだけ見ているんだからそろそろ何か新しい発見をしなければというツッコミは置いておいて。

ところがですねえ、この胎児の動きに関して、一緒に見ている妊婦さんご本人やそのご家族の発する感想が、人によって違いがあるので、ああ皆さんいろいろな考え方をされるものなんだなあと考えてしまうことがあります。そんな中で、このところ割と多くて気になるのが、「こんなに動いていて、大丈夫なんですか?」という質問です。妊娠初期の検査(11週から13週に行なっています)の時によく聞かれます。

どうも胎児は子宮の中でじっとしているものなのだろうというイメージがあるのか、「こんなに動くものなんですか?」という質問をされることが多かったのです(逆にしばらくじっとしていると、すごく不安そうになられる方もおられますが)が、そういう素朴な疑問から一歩前に出て、『動くことは大丈夫なのか?』という心配につなげる方がそれなりに多い頻度でおられるようなのです。もしかしたら私のクリニックを受診される方に多い傾向なのかもしれません。多くの場合、通常の妊婦健診だけでは不安があるという方が、わざわざ来院されるわけですから。でもね、そうなんでもネガティブに捉えなくても良いじゃあないですかと言いたくなることもあるんです。

胎児だって生きてるんですから、そりゃあ動きますよ。数週間前まではまだ手足も伸びてなかったようなのが、ちょっと人間らしい形になって、まるでもう外界で生活している人たちと同じように手足をバタバタさせることができるようになっているなんて、すごいことじゃないですか。そう素直に考えてもらえませんかねえ。←これは私の心の声です。

もう少し妊娠週数が進むと、胎動を感じるようになりますので、胎児が動くことは普通のこと、むしろポジティブなこととして意識されるようになるのでしょうが、まだやっと形になった頃だとあまりそうは思えないのかもしれませんね。でも心臓も動いて血液が全身に循環しているし、脳から繋がった神経も全身に行き渡っているわけですから、動かないとねえ。動かないと筋肉も発達しませんし、関節も固まってしまいます。

こういう場合の考え方には、かなり個人差があるのだなあと感じます。人によっては、もうただひたすら動きを見て楽しんでおられる方もおられますから。悪い言い方をすると単純なのかもしれません、でもむしろ健全なのではないかなあ。もちろん、そう考えなければ健全ではないと言いたいわけではありませんが。もう少し気楽でもいいと思うんです。ネット検索するといろいろ心配になるような情報が溢れているので、心配になる気持ちはわかるんです。でもそこまで心配しなくても、と感じるケースも多いのです。私たちのクリニックを受診していただくことで、少しでもその不安が減って、気楽に構えていけるようになっていただける助けになれればと考えています。

検査の結果をどう捉えるか、その先をどう考えるかは、人それぞれでいいと思っています。たとえば妊娠初期のコンバインド検査(当院では、FMFコンバインド・プラスという名称で行なっています)の結果として表示される計算結果の数値。この検査の結果は確率で表示されますので、1か0かという明確な答えが出るわけではありません。私たちにとってはもう全く問題ないと思われるような低い確率の数字でも、心配になる人は心配だし、ある程度の数値でも自分なりの基準で比較的あっさりと受け入れる人もいます。私がこんなことを言ってしまっては元も子もないと思われるかもしれませんが、所詮お腹の中の胎児のことを完璧に評価することなど不可能なのです。いやそもそも元気で何の問題もなく生まれてきたお子さんだって、ある程度成長してから他の子供とは違った特性(たとえば発達障害や自閉症など)が見つかることだって、いくらでもあるのです。どこかに基準を決めて踏ん切りをつけるしかないのですから、そこは自分の基準で決めてもらっていいのです。

こういった決定を行うときに、自分では決められない人、決めようとしないで他人に委ねる人がおられます。特に検査結果の解釈のようなやや難しい話になってくると、思考停止に陥るような場合があります。そうならないように、なるべく自分で考えることができるように、検査前の説明と遺伝カウンセリングの機会を設けています。どのような場合でも自分で考えて自分自身で決定していただくことが基本で、私たちの仕事はそれを可能にするための情報提供やアドバイスを行なうことと考えています。しかし、決断力も人それぞれ、特に専門的な検査結果の解釈となると、医師の判断で決めてほしいとなってしまうことは仕方がないのでしょうか。「この先の検査は必要ないですか?」という質問も良くあります。この質問が、超音波検査などについてならば良いのですが、コンバインド検査の結果を受けて、絨毛検査や羊水検査といったリスクを伴う確定検査の選択についてとなると、話はちょっと違ってきます。

言葉尻を捉えるようなのですが、「必要」か「必要でない」のかと問われると、厳密には確定診断のためには「必要」なのです。そうではなくて、確定検査には侵襲を伴うから、自身の選択として「やることにする」か「やらないことにする」か、なのです。

これは、私たち医師が決められることではないのです。医師の意見に従おうと考えずに、可能な限りご自身で決めていただけるようにしたいと常々思っています。(とはいえ、それではいつまでも決まらないこともありますので、ある程度指示的な言い方をする場合もあるとは思います。まあ大体は決まっていて、なんとなく背中を押して欲しいのだろうなと感じる場合には、そういう言い方もします。)

ここで言いたいのは、医者が、「大丈夫でしょう。」とか、「問題ないですね。」と言う時に、それが何を意味しているのかには、状況によってだいぶ違いがありますよということ。毎回健診のたびにいちいち確認している訳にもいきません(そういう人がいたらそれはそれで困るでしょう)が、「何について」「どの程度」大丈夫で問題ないのか、よく考えることも必要だし、時には確認することも必要でしょう。わりと軽く発せられる言葉は、内容的にも軽いことが多いものです。医者が大丈夫と言ったからといって全面的に受け入れてしまうことにも、十分に注意が必要だと思います。自分が本当に理解して納得しているのか、時には立ち止まってじっくりと考えることも必要なのです。そして、自身や家族の将来にも関わる大事な問題は、人(医者)任せにしないで、自分で判断して決定してほしいのです。

自分で考えて出された決定が、時に私たちの考えとは違っていることがあります。なぜそのような判断をされたのかと当惑することもなくはありません。それでも私たちは、自分で決められた結論を尊重します(それが法的・倫理的に明らかに許されない場合を除いて)。私たちの仕事は、そういうものだと思っています。