産婦人科のお医者さんは、もっと自信を持って堂々と診療してほしい。前編

2017年の年末も押し詰まってまいりました。クリニックは昨日28日をもって本年の診療を終了し、昨夜は忘年会を執り行いました。年末年始、少し時間的余裕もできるので、ブログの更新も進めていきたいと思っています。

当院は、遺伝相談や遺伝学的検査と画像診断のみを行なっている施設ですので、当院を受診される妊婦さんは基本的に、普段はかかりつけの産科施設で妊婦健診を受けておられます。最近は、不妊治療を受けて妊娠する方も多く、不妊治療を受けていた施設から妊婦健診を受ける施設へ移動するだけでなく、転院前から行っていた治療(例えば妊娠維持のために行う治療)を転院後も継続して受けるため、2カ所の施設に通院する方もおられるようです。妊婦健診を行う施設にも大学病院から街の開業医まで様々な施設があり、妊婦健診に付随する検査の方針や対応、妊娠中の体のトラブルに対する治療・管理方法、日常生活に対する指導など、施設ごとにかなりの違いがあるようです。本来であれば、日本産科婦人科学会が発行している「診療ガイドライン」というのがありますので、これに基づいて全ての施設で一律な対応があってしかるべきなのですが、これが全てをカバーできる内容では必ずしもないこと、診療が長年の経験に基づいて行われることも多いことなどから、必ずしも一律にはならない部分が多いようです。中には、一度ガイドラインをきちんと読みましょうよ、とお医者さんに言いたくなるようなケースもあったりします。

一般の方々はあまりよくご存じないことのようなのですが、妊婦健診を行なっている医者が必ずしも妊婦の診療を専門にしている医師ではないということもかなりあります。こんなことをいうと、「えっ、産婦人科のお医者さんなんじゃないの?」と驚かれる方もおられると思いますが、そもそも産婦人科と言ってもその中には様々な専門分野があります。大きく分けると、「周産期・産科医療」「不妊・内分泌」「婦人科腫瘍」の3つがありますし、その中でも細分化されます(例えば「不妊・内分泌」といっても、不妊症が専門の医師も、思春期や更年期への対応が専門の医師もいます)。また、骨盤臓器脱を扱う女性泌尿器科的分野など、他の診療科と重なったり橋渡しのような部分を専門にする医師もいます。しかし、専門分野は違えどそれぞれにオーバーラップする部分もありますので、全く専門分野のみをやっているというわけでもなく、産婦人科医としては一通りの研修を受けて、広い範囲をカバーするようにはなります。例えば私は、いまは胎児の画像診断と遺伝学の分野を中心とした仕事をやっていて、ここ数年お産には立ち会っていませんが、数年前まではお産もやっていました(むしろこれは専門分野の一つだった)し、大学病院時代(約9年前まで)は、婦人科腫瘍の手術や治療もやっていた(実は手術でいろいろな工夫をするのは好きでした)し、骨盤臓器脱の新たな手術法に取り組んだり、まあいろいろとやっていました。でも、正直言って、立場上複数の教授から教わった技術を駆使して癌の手術も手がけていたものの、本当に婦人科腫瘍を専門としている医師と比べれば、その技術や知識は劣っていたと思います。

だから産婦人科医であれば、みんな妊婦健診やお産はできます。しかし、やっぱり専門にしている人と比べると、やはり技術や知識は少し劣る人もいるわけです。(とはいえ、世界の中で見てもかなり低い周産期死亡率・母体死亡率を誇る日本の産科医療を下支えすることのできるレベルにはみなさん達しているわけで、まあ劣るというと誤解を招くかもしれませんが、専門的に見ると微妙な差がはっきりとあります)

実際にやっている方も、「自分は専門的知識はそれほどない」と自覚してやっている部分があります。科学の世界は日進月歩で、長年変わらない普遍的な法則もあるけれども、年々新しい知見や改良が加えられ、変化していく部分も多いです。これら全てについていくこと、特に本来の専門とは違うようなところまでカバーすることは、例えば周りに情報提供をしてくれる別の専門家が同僚としていてくれるような施設(例えば大学病院)で働いているのならまだしも、個人で日常診療に忙殺され、学会参加や論文にあたる時間もままならないような場合には、極めて難しいと言わざるを得ません。例えば私も、クリニックは「産婦人科」を標榜していますが、ほかに標榜科がないので仕方なくそう言っているという部分もあり、自分自身ではとても婦人科医とは言えない(クリニックでは婦人科診療はしていません)と思っています。お産もやってないので、厳密には産科ですらないかもしれません。開業医が保健所に届け出をする際に、選択肢の中から選ぶと、産婦人科がまあ一番適当かなといったところなので、そうなっているわけです。新しい抗癌剤の使い方など、私は知りません。これと同じことで、妊婦健診をやっているお医者さんだからといって、胎児超音波診断がしっかりできるわけでは全くありません。

そんな中、まだガイドラインにも載らないような、新しい検査や治療などが行われていると、それがどのような根拠に基づいているのか、どのぐらい信頼性があるのか、判断が難しくなります。正直のところ、一般的とはいえない独自の検査や治療を行なっているクリニックが、この国にはたくさんあって、特に不妊治療の分野でそれが顕著だったのですが、最近はここに不育症という新しい分野が加わりました。この分野の問題点について、以前記事にしました。

不育症患者が増えている!? ーーつづき2 – FMC東京 院長室

最近、この記事のようなケースが、次から次へと来られるようになっています。ある不妊治療施設などは、そこで妊娠した人は全員、不育症の治療をすることになっているのではないかと感じられるぐらいの状況です。うがった見方をすれば、不妊症治療に成功してクリニックを卒業していくはずの患者さんたちを、妊娠した後もつなぎとめておこうとしているのではないかとさえ思います。どこまでも搾り取ろうとしているのかとも。

私から見れば明らかに不必要と思われる治療を続けておられるわけで、私もあまり他のお医者さんの方針に対して否定的なことは言いたくないし、なるべく明らかに否定するようなことは避けてはいるのですが、最近あまりに目に余るので、それはもうやめたほうがいいと言ってしまうこともあります。しかし、妊婦健診とは別にその治療を続けている方に、妊婦健診を担当しているお医者さんはどう言っているのかと聞いてみると、「まあそれについては私はわからないので、治療しているところの先生に聞いておいて」と言われるのみだと言うのです。

                                 つづく