NIPT 海外ではどうなっているのか -3

淡路島で開催された、第3回日本産科婦人科遺伝診療学会に参加しました。出生前診断、生殖医療から婦人科腫瘍まで、様々な話題について議論されたのですが、そんな中でNIPTを扱う検査会社のセミナーがあり、海外事情について触れていましたので、シリーズ3として、一部のみですがまとめておきたいと思います。

このセミナーの講演では、世界の各国において、NIPTがどのように扱われているか(誰を対象に、どのような経済負担額で行われているか)を提示し、そのシナリオごとに有効性(検出感度とコストとのバランス)について比較検討していました。この検査にどのぐらいの料金設定が妥当なのか、国がどのくらい負担するのか、検査を受ける本人はどのくらいの金額を支払わなければならないのか、検査を提供する側にとっても複数の検査会社があって競争がありますから、こういった問題は避けて通れません。

ここでは、どの国がどういった施策をとっているかについて、まとめておきたいと思います。

国によって、公費で(補助金を受け取るなどして)検査を受けることのできる対象者は違っています。国によっては地方ごとに違いがあるところもあります。対象に当てはまらない場合でも、希望すればプライベートクリニックで自費で受けることも可能ですし、希望しなければ検査を受けない選択もできます。以下、国ごとの方針を記載します。

なお、以下の記載のうち、Risk >1:〇〇と表示しているのは、これまで主流であったFirst Trimester Screening検査(以下FTSと略します)(当院で行なっているコンバインド検査と同様のものです)の結果として得られた数値です。

イギリス Risk >1:150 の妊婦が対象(2018年より)

フランス Risk > 1:1000 の妊婦が対象(2018年)

ドイツ ケースバイケース。ハイリスクの基準について検討中で、2019年に決定する

スイス Risk > 1:1000 の妊婦が対象(2015年より)

ノルウェー 38歳以上の妊婦で、Risk >1:250 の妊婦が対象

オーストラリア 評価方法について検討中で、2018年に決定する

以上が国全体として、一定条件で公費(補助)による検査対象を絞っているところ。

スペイン、イタリア、デンマークスウェーデンフィンランドカナダ、中国

以上が、一部地域や公的病院で、一定条件で検査対象を絞っているところ。多くの場合、FTSでハイリスク(だいたいは>1:150)、または中等度リスク(1:150〜1:1000)の場合を対象としています。日本のように年齢だけで決めるということはしていません。(年齢で決めるというのは、スクリーニング方法としてアバウトすぎるから)

またいずれも、日本のような臨床研究という条件付けや厳しい施設基準はありません。

以下は、条件を設けず、妊婦全員を検査対象としているところです。

ベルギー 2017年7月から全妊婦が対象

オランダ TRIDENT-2 studyの一部として、全妊婦が対象(2017年1月より)

なお、ポルトガルアゾレス諸島および、カナダユーコン準州では、35歳以上の全妊婦が公費負担の対象となっています。

オランダのみが、国の施策として臨床研究という形で行われています。研究の主体となっている団体が、the Dutch National NIPT consortiumなので、なんとなく日本と似ているようですが、研究なので公費負担している(日本ではなぜか自費負担となっている)という違いがあります。Trident-1 study(Risk >1:200の妊婦が対象)は、2014年4月から開始され、2年間の結果を受けて、2017年から3年間の計画で、全妊婦を対象にTrident-2 studyが始まりました。

この研究の中で、NIPTは全て国内6カ所のラボで行われることになっており、その他の検査会社での検査については公費補助が受けられない体制をとったため、ベルギーの検査会社がオランダ政府を訴えたなどという問題も起きているようです。

というわけで、いろいろと体制は違えど、どの国においても基本的な考え方として、検査を受けられるべき人に対しては、より安価に受けることが可能な体制を整えようという姿勢にはかわりがないようです。