不育症患者が増えている!?

私のクリニックには、普段は別の施設で妊婦健診を受けておられる妊婦さんが来院されます。普段通院しておられる施設には、様々な病院・クリニックがありますが、妊婦さんの管理方針についても施設ごとに違いがあることを感じています。そんな中、最近とみに感じるのは、不育症という診断で受ける種類の治療を受けておられる方が多いことです。

不育症は、増えてきているのでしょうか!?

実際に医師が薬剤を処方した治療を受けておられる方が増えているわけですから、不育症は増えているのだとして、ではなぜ不育症が増えているのでしょうか。

何人もの方の診療を行ってきた上で、私なりに考えた理由は、以下のようなものです。

1. 不妊治療が進歩して、悪条件でも妊娠する人が増えた。

2. 不妊治療後の管理の結果、以前には見落とされていたような妊娠までが、診断可能となった。

ちなみに、「不育症」という用語は、日本医療研究開発機構(AMED)が開設しているFuiku-Laboのページ(以下)に記載されているように、習慣流産や反復流産といった診断名よりもより広い意味で用いられていて、明確には定義されていません。

不育症とは/不育症研究-不育症治療に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究-

不育症のリスク因子は、同じホームページにある(以下)ように、さまざまですが、圧倒的に多いのは、「リスク因子不明」及び「偶発的流産」です。

不育症のリスク因子/不育症研究-不育症治療に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究-

さて、不育症が増えている要因として、私なりに考えた上記2つについて考えてみたいと思います。

1. ですが、以前には妊娠しなかった条件でも妊娠できる人が増えたが、その分、流産する人も増えた。ということです。一番わかりやすいのは高齢妊婦でしょう。妊婦が高齢になると、染色体のトリソミーが増加することが知られています。ダウン症候群(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミー以外のトリソミーは、通常育たず、流産に終わりますので、高齢妊婦が増加すれば流産も増えます。実際に流産に終わった妊娠において、16トリソミーや22トリソミーが比較的多いことが知られています。

つまり、単純にいうと、高齢妊婦が増えれば自動的に流産が増え、それが運悪く連続すれば不育症という診断になるということです。

2. についてはどうでしょう。以前にはカウントされていなかったごく早い段階での流産が、カウントされるようになった結果、不育症と言われることが増えたというだけです。近年は、ホルモンの変動で妊娠と言える状況ではあるが、画像診断では確認できないままに終わる、「化学流産」まで一般的な流産と同等に考えてカウントされていたり、不妊治療がなかなか成功しないことまで、この範疇と同様に考えたりする人もいて、本当に不育症とは言えないようなケースまで入ってきている印象があります。

結局、実際には体質の問題や、体内の機能異常などが原因で、流産を繰り返すようなケースが増えているわけではないと思われます。

ところが、現在不育症、あるいはそれに準ずる状態として、医師からの処方によって治療を受けている方々の多くは、血液凝固の問題を指摘されて、それに対する薬剤投与を受けておられます。具体的には、アスピリンやヘパリンを用いた治療です。

私は、この治療を受けておられる方の多くは、この治療が効果的であるとは言えないばかりか、治療そのものの必要性すらないのではないかと思います。それだけではなく、この治療は必ずしも安全とは言えないはずなので、現在のように安易に(お守りがわりなどという説明で)使用せず、きちんと適応を選ぶべきだと考えています。

                              ーー つづく