日本産科婦人科学会が妊婦さんに呼びかけた「お知らせ」には、どういう意義があるのだろうか?

平成29年8月26日付で、日本産科婦人科学会が、妊婦さんに向けて「お知らせ」を出しました。以下のようなものです。

「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査(NIPT)」を受けることを考えている妊婦さんへ

一部内容を抜粋すると、

安心してNIPTを受けていただくためには、①検査の目的は何か?、②どのような妊婦が検査対象となるのか?、③結果をどのように解釈すべきか?、④結果をうけてどのように行動すべきか?、などについて、検査の前後に、遺伝学の知識を持つ専門の医師による遺伝カウンセリングを受ける必要があります。

 

日本医学会では、NIPTを安心して受けられる体制が整った施設を、厳正な審査のもとに認定しています。これらの施設では、NIPTの施行前に、十分な遺伝カウンセリングを行い、妊婦および家族の皆様のご不明な点やご心配な事項に適切にお応えすることが可能です。また、検査後には、結果とその意義の説明だけでなく、その後の経過についても、適宜遺伝カウンセリングや心理的ケアを交えながら、適切に対応することとしています。

 

日本産科婦人科学会は、NIPTが実施認定施設で適切に行われ、妊婦さんが安心してNIPTを受けられるよう、今後とも努力してまいります。

 

ということで、

これは要するに、認定施設ではない施設がどう検査を扱っていることを問題視して、そのような施設では検査を受けないように呼びかけているわけなんですが、この呼びかけ、どのような効果があるのか大いに疑問です。

例えば、検査を希望する妊婦さんたちの受け皿としての認定施設が、十分に機能しているのなら、非認定施設を選択しないように呼びかけることには意味があると思います。以下のような場合です。

1. 認定施設が全国に配分されていて、検査を希望する方の受け皿として充足しているが、非認知施設が価格を下げたり利便性を高めるなどして検査を提供しようとしている。

2. 非認定施設が提供する検査そのものが、同様の検査であることを謳っているにもかかわらず、その精度や質の面で劣っている。

しかしながら実際には、現在の検査提供体制は全く充足しておらず、検査希望者が予約を取るのに四苦八苦しています。また居住している地域によっては、検査を受けることのできる施設までのアクセスすら容易でない上に、主治医を介さないと予約が取れなかったり、夫婦での遺伝カウンセリングが義務とされていたりするなど、実際に検査を受けるまでには多くのハードルが設定されていて、まるでなるべく検査しづらくしているようにすら感じることさえあります。希望する検査の予約が取れずに困っている状況で、より簡便かつ確実に検査が受けられる施設があれば、そしてその施設での検査そのものの精度には問題がなく、かつ価格が抑えられていれば、人々がそちらに向かうことは当然のことではないかとさえ思います。

現在、多くの検査希望者を受け入れている非認定施設の検査実施体制は、私から見ても酷いもので、きちんとした事前説明も結果についての説明も省略されているようです。このため、結果に困惑されて当院に来られる方も時々おられます。このような形で乱暴に検査を提供することは大きな問題です。しかし、認定施設がニーズに応えられていないなら、このような施設であろうと受診される方が多くなってしまいます。この事態は、日本産科婦人科学会(だけでなく日本医学会はじめ複数団体ですが)自身が招いたものでもあるはずです。

そして、このような「お知らせ」をしたところで、検査を受けることを思いとどまる人が増えるとは思えません。いったいどういう効果を期待してこの「お知らせ」を出したのか、よくわかりません。

本来やるべきことは、現在の提供体制で本当に良いのか、どうすればより良い体制になるのか、できるのかについて、早急に改善させていくことに力を注ぐことではないかと思います。

実際のところ、この「お知らせ」自体も、ツッコミどころが多々あります。それは次回に。