超音波検査は、正常・異常を判別しているのか?(2015年8月26日)

まずは、これまでにFacebookページ上で書きためてきたコラムなどをこちらに再掲していきたいと思います。はじめは、昨年8月26日(開院して2週頃)の記事です。

超音波検査をうけて、何かを指摘された場合、それが異常を見つけたことになるのかについての誤解が多いように感じます。たとえば、NT(Nuchal Translucency、後頸部透亮像) の厚みが目立つと指摘された場合、これは異常を見つけたことになるのでしょうか?
NTは、どんな胎児にも見られる、皮下組織の超音波透過性の高い部分です。この部分の液体成分含有量の多さにより、超音波が透過するため、黒く抜けて見えます。この厚みの微妙な違いは、これを測る頸部後方における、液体成分の貯留しやすさによってかわります。この検査を行う時期の胎児では、全身の液体成分を運んでくる『リンパ管系』がようやく形成され、『血管系』とのつながりができて、リンパ液が血管に流れ込むようになります。このつながりの出来具合、タイミング、リンパ管系の作られ具合、皮膚の柔らかさ、血液やリンパ液の濃さや流れやすさと壁の透過性とのバランスなどが、NTの厚みに関係します。それはちょっとしたタイミングのズレなどによっても左右されます。だからNTの厚みは、胎児によって差があって、薄い子もいれば厚い子もいるわけです。ただ、この厚い薄いの差は、正常児では一般にあまり大きくないけれども、染色体異常児ではばらつきが大きく、いろいろな要因で厚くなりやすい傾向があるので、厚みが目立つ場合に、染色体異常が見つかりやすくなるわけです。どこかに境界線があって、そこから下は正常、そこから上は異常というものではありません。また、厚いからといって、それ自体が病気というわけでもないし、厚ければ何か病的なことがあるはずと考えるものでもありません。胎児の体が作られていく途中のごく初期の段階の変化の一つです。ちょっとしたタイミングのズレで、一時的に厚くなっていたからといって、病気につながるわけではないことが多いのです。
組み合わせ検査(FMF標準コンバインド・プラス)を行う理由は、NTが厚い/薄いの違いだけでは、胎児に問題があるかどうかを判断するための情報としては、まだまだ曖昧であるからです。超音波検査で得られる所見の多くは、このような曖昧さを残しています。たとえば三尖弁閉鎖不全があっても、必ずしも心臓に異常があることを意味していません。初期の段階で鼻骨が見えなくても、何の問題もないことも多いのです。血清マーカーも同じです。胎児が染色体正常児の場合と、染色体異常児の場合とで、数値がまったく違っているわけではありません。どこかに線引きがあって、正常/異常と分けることができるわけではないことは、NTと同じです。それぞれの検査項目は、一つでは曖昧な部分があるけれども、これらを複数合わせて評価することによって、胎児がなんらかの問題を持っている可能性について、問題のない胎児との違いをより明確にすることができるのです。検査をお受けになる方、お受けになった方は、このことについて冷静に考えていただいて、検査結果を見ていただきたいと思います。組み合わせた評価にこそ、意味があります。幾つかの項目のうち、一つだけが引っかかったからといって、それは病気を意味しません。たとえばNTがやや厚かった場合でも、総合的に胎児の染色体異常の可能性が低いと判断されたならば、NTの厚みは染色体異常との関連は少ないと考えることが可能になるはずです。
インターネット上に溢れる情報では、NTの厚みと染色体異常との関連について、必要以上に心配を大きくしてしまうような間違ったものを見てしまうことが多いようです。当院では、検査前後に、できる限り検査結果の見方についてご理解いただけるよう、時間をとってお話ししているつもりですが、じっくり考えないと理解しがたいこともあるかもしれません。疑問点があれば、その場でご質問いただくか、直接お問い合わせください。くれぐれも、検査して帰宅した後に、インターネットで調べようとはお考えにならないように。インターネット上の情報は、正しい情報よりも不十分な情報の方が多く、よけいわからなくなったり、判断を誤ることに繋がりがちだからです。